峰守雑記帳

小説家・峰守ひろかずが、見聞きしたことや思ったことを記録したり、自作を紹介したりするブログです。峰守の仕事については→ https://minemori-h.hatenablog.com/

「予言獣大図鑑」見本誌届きました

 もうじき(2023年12月8日頃)、文学通信から「予言獣大図鑑」という本が刊行され、それにちょっと関わっていることは前の記事で書きました。

「予言獣大図鑑」出ます - 峰守雑記帳

 先日、その実物が届きましたので、改めて紹介というか感想というか、そんなことを書いてみようと思います。

 

 

 実際に手に取ってみてまず感じたのは「分厚い」「デカい」ということ。サイズはもちろん前から知ってましたが、ほぼほぼ文庫ばっかり書いてきた身としては、著者見本としてこんなデカい本が届いたのは初めてで興奮しました。

 本の内容については先日の記事でも書きましたし、詳しくは公式サイトを参照いただきたいのですが、タイトル通り予言獣(予言をして消えた妖怪的なもの)の図鑑です。

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 予言獣とは何なのかについては、冒頭に、長野栄俊さんによる序章「「予言獣」とは何ものか?─研究史の整理と再定義─」が収録されているので素人でも安心。

 図鑑本体となる資料図鑑ページは、顔は人で体が魚の「神社姫・姫魚」系、小松左京や内田百閒でお馴染みの「件(クダン)」系、コロナ禍で有名になったアマビエを含む「アマビコ」系などなどに分類されております。

 本文中にもありますが、一般的な妖怪画と比べて、予言獣の絵ってちゃんとした絵師が描いてないものが多いんですね。なので端的に言ってあんまり上手くないんですが、普段絵とか描かないであろう人がどうにか特徴をとらえようとしていることは伝わってきて、そこに得も言われぬ味があると思います。

 個人的には、神田明神に現れた人型予言獣(予言人……?)「きたいの童子」のバリエーションが、書き手の画風がはっきり出ていて好きです。

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 編纂時点で見つかってる資料はとにかく全部収録する!!!という力強い方針だったので、ざっくりした妖怪図鑑では省かれそうなのもしっかり載ってます。

 アマビエとアマビコの間に位置する(かもしれない)という、あたかも高起動試作型ザクかグフ試作実験機みたいなポジションの「アマヒユ」や、「我は人間でも魚でもない」とアニメのグリッドマンの主題歌みたいなことを言ったおじさんが掲載された本は「予言獣大図鑑」だけ! これはあなた貴重ですよ。

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 第一部はそんな感じの資料集ですが、続く第二部は予言獣論。

 ここでは予言獣の周辺についても触れられており、笹方政紀さんの「件(クダン)の予言」では、予言獣の代表格っぽいクダンが意外と予言をしないことについて、同じく「繰り返す人魚の流行」では、神社姫の類型に連なるものの予言をしないものたち(人魚)についても触れられており、痒い所に手が届く構成となっております。

 新聞記者である岩間理紀さんによる「「予言獣の探し方」メモランダム ─記者のデジタル利活用の事例から─」は、予言獣資料の発見ルポ的な内容。私、UMAを追うノンフィクションとか大好きなんですが、そういうのと似たテイストを感じて楽しく読めました。

 

 ちなみにわたくし峰守は、コロナ禍の頃から私のSNSを見てた方には「またかよ……」と思われるかもですが、いつの間にか疫病退散の妖怪として定着したアマビエを対象に、属性(権能)の変換が起こった経緯について書いております。

 余談ですが、これを調べる過程で、水木しげるという人の影響力の大きさを改めて感じたりしました。妖怪をやってると絶対出てくるんですよねこの方。偉大過ぎる。

 さらに余談ですけど、今ちょうど「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」が公開中ですが、いやー良かったですね。好きなセリフは「つまんねえな!」と「やらせとけ!」です。

 閑話休題

 ご存じの方はご存じの通り、2020年のコロナ禍において、もともとは予言をする妖怪だったアマビエは、あれよあれよという間に疫病を退ける妖怪になり、そのまま定着してしまいました。

 定説を覆す資料が見つかったわけでもないのに、いつの間にかなんとなく事実が書き換えられ、「昔からそうだった」ことになってしまう。そういう現象が現代でも起こり得て、しかもその虚構に官も民も乗っかって、その状況は今も(多分これからも)続いていく……というのは、改めて考えるまでもなく結構怖い話だと思います。

 狭い観測範囲内の事実をまとめた拙い文章ですが、記録として本の形で残るのはありがたい。何らかの形で役に立つことを願っています。

 

 私の関わったパートは少ないので代表して言うのはおこがましいのですけれど、資料集としても記録としても貴重な本になっていると思います。よろしくお願いいたします。見えない世界の扉が開く!

www.hanmoto.com

 

 追記。版元の文学通信さんにて、「予言獣大図鑑」とあわせて読みたい関連書(?)の紹介記事が出ておりまして、私は四冊挙げております。うち二冊が自著で恐縮ですが、何かの参考にしていただければ幸いです。

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