峰守雑記帳

小説家・峰守ひろかずが、見聞きしたことや思ったことを記録したり、自作を紹介したりするブログです。峰守の仕事については→ https://minemori-h.hatenablog.com/

金沢行ってきました(妖怪スポット巡り② 山と川編)

 前回の続きです。

 なお、「行ってきました」と言いつつ、今回の写真の大半は、先日の金沢行きではなく、それ以前に撮ったものです。この暑さの中で山や川を歩き回ったらこきゅうこんなんになってしまう。

 まずは、泉鏡花も金沢の誇る魔所として挙げている黒壁山から。

 

 金沢城築城の際、本丸の位置に住んでいた魔物がこの山に移されたため、江戸時代には山全体が「魔所」と呼ばれ、恐れられていたそうです。魔所扱いされるだけあって、凄味があるというか、畏怖を覚える山でした。

 実際、「天狗攫い」が起こるとか、出会ったら死ぬ「異人」がいるとか、怖い話が色々伝わってます。

 

 で、この山の魔の正体(主体?)とされるのが「九万坊」、あるいは「黒壁山の九万坊」と呼ばれる天狗(もしくは神)。この九万坊は、明治以降に金沢市内の各所の寺院で祀られるようになったそうで、その中心地である黒壁山薬王寺には今も九万坊が祀られています。

 

 正確に言うと九万坊が祀られているのは黒壁山の「奥の院」という山中の祠なんですが、ここに行こうと思って山中の川縁の一本道を歩いていくと、途中で道が途切れるんですよ。

 あれ? 間違えた? と思って周りを見ると、見上げた先の山の斜面にぽっかりと洞穴が口を開けており、これが奥の院なんですね。気付いた時はアーッて声が出ました。


 ちなみに、この奥の院あたりでは「絶対振り返ってはいけない」というタブーが今でも伝わっている……という話があるそうで、私は山から帰ってからそれを知りました。足元が険しい場所なのでめちゃくちゃ振り返りましたが、半年経っても無事です。

 なお、「振り返ってはいけない」の話の出所は不明ですが、少なくとも薬王寺の方はそういうことは言っておられなかったような。

 

 続いて卯辰山に参ります。泉鏡花の母のお墓を始め、霊園や寺院の点在する山で、黒壁山が魔属性だとすれば、こっちは聖属性という印象があります。

 卯辰山は黒壁山と違って金沢市街地から近いんですが(何せ、金沢を代表する観光地のひがし茶屋街を抜けたすぐ先です)、そんなロケーションなのに、ちょっと歩くだけで水木しげる作品か諸星大二郎作品か「蟲師」みたいな風景になるのが面白く、しかも「麓の寺院群→その先の山道」で二回景色が変わるのがなお面白く、金沢の名所の中でもお気に入りの場所でして、私の小説ではしょっちゅう出てきます。

 

 この卯辰山の麓の寺院群には色々な逸話があります……と言ってもほとんど回れていないので写真はないんですが、宝泉寺こと摩利支天堂には、いじると風雨が起こったり心がおかしくなると言われた石「岩時鳥(いわほととぎす)」があったとか、肝試しに来た男たちの前でお堂が崩れたが翌朝行くと何も起こってなかったとかいう話が伝わってます。

 

 天狗が住んでいたとされる「五本松」も健在です。


 なお、ここに行くには石段を登っていかねばならないので、雪のある時期に行くときは長靴をおすすめします。私は愚かにも通気性抜群のウォーキングシューズで雪を踏み分けて行ったので足がえらいことになりました。


 卯辰山は歴史のある山だけに、山そのものにまつわる怪異も多く、立ち入ってはいけない日にここに入った男が不思議な現象に出くわす「山祭の日」事件、先述の大天狗「九万坊」、人を攫う名前のない「天狗」たち、遠くのものが近くに見える「縮地の怪」等々、新旧さまざまな話が伝わっています。

 個人的には、この山に来た九歳の子供がいきなり浮かび上がったが母親が引っぱり下ろして助けたという話(摩利支天山)が印象的です。金沢には神隠しの話は多いんですが、だいたい行方不明になったところから始まるので、その未遂現場の話って珍しいなあと。

 卯辰山はほんとにいいところで、途中の卯辰山三社の趣や、山上の見晴らし台から見る風景もそれぞれ素晴らしいのですが、熊(これは妖怪ではないです)も出るのでお気をつけて。

 

 怪異の起こる山は他にもあるんですが、行けてないので川の話に移ります。

 まず、卯辰山のすぐそばを流れる浅野川。「女川」と通称された穏やかな川ですが、ここに架かる浅野川大橋の火の見櫓には、1907年に「青い蛍火のような火の玉」が出ると噂になって、毎晩大勢の見物人が集まったそうです。

 

 また、ひがし茶屋街の対岸あたりにある浅野川神社(浅野川稲荷神社)には、千年の修行を積んで予知能力を得た白狐「天刹(てんさつ)」が書いた神号が今も納められているそうです。


 ちなみにこの浅野川神社、コロナ禍の最中にはアマビエを推していました。どうして……! 予言できる妖怪なら天刹がいるのに!


 その他、「火の玉」が出たとか、源流は「白菊の淵」と呼ばれて菊が年中咲き乱れているとか、浅野川流域には色々伝わってますが、全体的におとなしくて上品な妖怪が多く、この後に紹介する犀川に比べて安全なイメージがあります。



 あと、浅野川関連で好きなのが「河太郎」の話。この浅野川の番人をしていた武士が、河太郎という頭に窪みのあるカワウソのようなものを捕らえて食べてしまったという話で、この人は七十歳を超えても元気だったそうで、浅野川はむしろ妖怪より人間が怖いということですね多分。

 

 続きまして犀川

 浅野川が「女川」と呼ばれるのに対し、こっちは通称「男川」。流れが激しめで深そうな川で、そのせいか浅野川より禍々しくて物理的な怪異が多いです。

 

 捨てられた死体を試し斬りしに河原に行った武士が、狐が「きつね火」を吐いて魚を取っているのを見たとか。

 犀川で処刑された「よね」(一説には「ねい」)という女が「よねが火」と呼ばれる火の玉になって現れ、橋を超えると成仏できるんだけど越えられなくて毎夜彷徨うとか。

 水を求める「産女」に出くわした坊さんが、望み通りに水を飲ませてやると産女は満足して消えたが、その坊さんも二、三日後に死んだとか。

 また、これは学校の怪談ですが、この川縁に出る「袋をかついだオバアサン」が「手いりませんか、足いりませんか」と聞いてくるので、特定の答を返さないと即座に殺されるとか、その他にもいかにも怪談っぽい話が多く伝わっています。

 

 中には、寛永通宝が群れで飛んでいるので叩き落として拾って帰ったという平和な話(「飛行の銭」)もありますが……と言ったところでネタと写真が尽きたのでこの辺で。

 

 金沢の妖怪スポットはまだまだありますし、行きたいけど行けてない場所は多いので、また機会があれば続きを更新します。


 なお、前回の繰り返しになりますが、この記事内で太字表記している妖怪・怪異およびその出典資料については、2023年8月18日まで受注生産受付中の同人誌「私家版金沢妖怪事典」で解説されています。よろしくお願いいたします。

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 また、今回取り上げたスポットや妖怪が多く登場する明治怪異ミステリー「少年泉鏡花の明治奇談録」、現代が舞台の人間妖怪友情連作「金沢古妖具屋くらがり堂」シリーズが発売中ですので、こちらもよろしくお願いいたします。

www.poplar.co.jp

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